「"てんやく"サークルって何のサークルなの?」と、よく聞かれます。悲しいことに、漢字すら想像してもらえないことが多いです。「点字を訳すと書いて……」と漢字の説明をしようとすると、「点字」を「展示」と間違われてしまう、なんてことも少なくありません。
先の漢字の説明の例を見れば大体想像がつくと思いますが、「点訳」とは「点字に訳す」こと、つまり墨字(普通の文字)を点字に直す作業を指します。
割と地味で華のある作業ではありませんが、職人気質の人は自分の技術を高められて楽しいです。ただ、視障者にとって読みやすい点訳をすることが一番大事だということを忘れてはいけません。自己満足で終わらないように気をつけましょう。
点訳は大きく分けると「パソコン点訳」と「手打ち」の二つがあります。パソコン点訳とは、パソコンの点訳ソフトを使って点訳すること。点訳したファイルは点字プリンターを使って専門の用紙に点字で打ち出すことができます。手打ちと比較したとき、パソコン点訳の良い点は間違ったとき直すのが簡単なこと。ぺージ数をふるのも、パソコンだと簡単にでき、手打ちと比べて時短がはかれます。データさえあれば複数作成することも容易です。
一方手打ちとは、点字板やブレーラーを使って点訳することです。短い文章を急ぎで打つ時に便利です。打ち間違えた場合、修正できる場合もありますができないケースがほとんどなので、その都度その紙まるまる一枚最初から打ち直しとなります。手間がかかり非常に緊張感を伴う作業で、点訳の練習にはもってこい。うちのサークルは普段はパソコン点訳ですが、初級指導はライトブレーラーを使って行っています。慣れていないと気をつけていてもつい間違えることがとても多く、打ち間違いに気付いた苦悶の声がよくあがります。
以下では私たちの作業手順にそって、点訳を説明します。うちは今主に漫画を点訳しているので、その作業手順です。漫画点訳を始めるとき、参考に出来るものがなかったために自分たちで考えたところがあるのでオリジナリティーが強いです。うちの漫画点訳特有の箇所はこの色の斜体で書きますね。
まず点訳したい文章(漫画)をパート(話数)ごとに分けてコピーし、コピーした原稿に番号をふっていきます。
漫画の場合は(話数)-(番号)です。ページ数とは異なります。左右ページセットで1枚の原稿です。原稿に番号をふり終わったら、原稿ごとにセリフにも番号をふっていきます。それから全ての原稿に登場人物の名前を顔にでも書いておきましょう。メインの人物なら大丈夫でしょうが、1話限りの登場人物だと名前が分からなくなることがよくあります。
次に進行表を作ります。項目は原稿にふった番号、マスあけ、マスあけチェック、BASE、BASEチェックです。この表の自分がやったページの作業項目に名前と日付を書いていくのです。間違いの発見しやすさの点から、同じページのマスあけとマスあけチェック、BASEとBASEチェックは別の人が担当します。
例:番号 | マスあけ | マスあけチェック | BASE | BASEチェック |
---|---|---|---|---|
1 | いぬのすけ 5/3 | うさこ 5/14 | ねこみ 6/2 | かめきち6/4 |
2 | くまお 5/3 | うさこ 5/14 | さるたろう 6/5 | うさこ 6/12 |
出来たら原稿を「マスあけ待ち」の箱に入れて終了です。
日本語の点字は平仮名の羅列です。(漢点字や6点漢字も存在しますが。)わたしたちはふだんかんじかなまじりのぶんしょうをよみかきしているのできづきにくいですが、ひょういもじであるにほんごはひらがなだけのぶんしょうにするととてもよみにくいうえにどうおんたぎごもたくさんあります。従って意味の取り違えが起こらないように、ルールに従って文章を区切る作業が必要になります。この文章を区切る作業をマスあけ(分かち書き)と言います。このルールがなかなかどうして例外だらけで難しかったりするのですが……まあそれはおいといて。基本的には文節で区切っていきます。詳しいルールは点訳のバイブルである『点訳表記辞典』や『点訳の手引き』などをご参照ください。余力があればまた後日まとめます。
漫画の場合は基本セリフをマスあけしていきます。しかしセリフだけでは状況が掴めない、絵が表現する部分もあるので、そういった場合は情景描写を適宜いれていかなければいけません。このマスあけの段階で情景描写も書いてもらいます。人によって細かく描写したり、割と淡々と描写したりと様々です。自分が思う情景描写を書いてもらいます。セリフを言いながらの描写は名前とセリフの間に(かっこ)で書き、セリフと独立して情景描写は改行して//((/段落挿入符/))//で書いています。
例:
//((/うさこと/くまお/はいきんぐに/きて/いる/))
//うさこ//(のびを/しながら)//きょーも/いい/てんきね!
//くまお//そーだね/うさこ/さん
終わったら原稿の隅に「マスあけ(名前)」と書いて「マスあけチェック待ち」の箱に入れ、進行表に名前と日付を書いたら終了です。
つぎにマスあけが正しくされているかどうかチェックし、赤で訂正します。チェックなので上回生がやるのが普通です。マスあけをした人は、自分のマスあけはどこが間違っていたか、チェックされた後に目を通します。ただうっかりしていただけであろうところは黙って訂正しますが、思い違いや勉強不足を感じた場合は、チェックの人はマスあけをやった人にどこがどういうふうに間違っていて、その間違いに関連するルールについて説明します。マスあけは難しいので、これを繰り返して少しずつ勉強していきます。
情景描写が不足していたり、表現が明らかに間違っていても、訂正します。表現に違和がある場合は周りの人にも尋ね、相談して訂正するか決めます。
終わったら原稿の隅に「マスあけチェック(名前)」と書いて「BASE待ち」の箱に入れ、進行表に名前と日付を書いて終了です。
実際にパソコンで点字を打ち込んでいきます。右のページをa、左のページをbとして、準備のときにふった番号と合わせて名前をつけ保存します(例:gyakuten010101a→逆転裁判の1巻1話01右ページ)。マスあけチェックされているから大丈夫、と安心せずに、マスあけが正しくないかもしれないと感じたら辞書を引いたり尋ねたりしましょう。また、パソコン点訳は修正が簡単な分、1行すっとばすなどのミスも出がちです。気をつけましょう。
終わったらファイルをサークル用USBに保存し、原稿の隅に「BASE(名前)」と書いて「BASEチェック待ち」の箱に入れ、進行表に名前と日付を書いて終了です。
既にマスあけについては二重チェックが行われていることになるので、油断しがちですが、ここでもマスあけがおかしいと感じたら放っておかずに調べなおしましょう。BASEでのミスは基本ただの打ち間違いなので一々BASEを打った本人を注意することはほとんどしません。しかし、ある文字がいつも何かの文字になっているなど一定の規則が見つかった場合、(例:"た"がいつも"な"になっている)打ちこみの癖やキー配置不適切を見つける手がかりになります。
終わったらファイルをサークル用USBに保存しなおし、原稿の隅に「BASEチェック(名前)」と書いて「総チェック待ち」の箱に入れ、進行表に名前と日付を書いて終了です。
1パート分全て(1話まるまる全て)のBASEチェックが完了したら、別の人で2回総チェックを行います。総チェックではデータを全て繋ぎ合せ、原稿を見ることなく点訳されたデータだけを見て、意味がわかるかどうか、話のつながりがおかしくないかをチェックしていきます。
例えば漢字を見なければ意味が分かりにくい言葉や難しい言葉には点訳者挿入符をいれます。 場面の切り替わりがはっきりしていなければ1行空けをいれたり、状況が掴めなければ情景描写を足したりします。
これで点訳終了です。データを依頼人に渡します。
既存の脚本点訳ルールを踏まえながらマンガ点訳用に適用改変したローカルルール。マンガ点訳用のルールが無かったために当サークルの先輩方が作ったもの。正規ルールではない、むしろ正規ルールなどないということを踏まえたうえで、もし新たにマンガ点訳を始めようという方は参考にして下さい。